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うさぎの草むしり堂
主にオンラインゲーム(ラグナロクオンライン等)と日常についてつづられています。
1?8 ほんの少しの変化
 アドレスを手にしてからといってボクと彼女の関係が変化することも無かった。
 このゲームの世界だけの関係なのだから現実世界なんて関係ない。
 それでも気にならないといえば嘘になる。

 二人で狩りをしているときでも会話をしている時でも、どうしてアドレスなんて教えたのかわからないままだった。
 普通ならば自分のアドレスを教えて何かと連絡がしやすくなることを望んでもいいはずなのにボクはそういう気分にはなれなかった。

【もう少しでJOBが50です】

 嬉しそうに話すユーリにボクは今日も自分から話を始められなかった。

【レベルもだいぶ上がったようだね】
【のんびりとですけど少しずつ上がっています】

 効率重視でないマイペースでもそれなりに数をこなすと上がっていくものだ。
 騎士とアコライトだなんて他から見ればどう見てもアンバランスだろう。
 狩場で誰かに見られると不思議そうに見られたり、せっかくユーリが支援したうえに辻支援をしてくる。
 それでもユーリは嫌な顔を一つせず嬉しそうにお礼を言っている。

【誰かに何かをされたらお礼は言わないとダメですから】

 生まれてこれまで一度も感謝の言葉を口にしたことの無いボクからすれば彼女はずっと大人びている。
 その影響なのかログインしてユーリと会うと挨拶をしている。
 変な気分になるが悪くない。

【あのさ】
【はい?】
【もしよかったら他の人とPTを組んでみる?】

 ボクからそんなことも言わなかっただけにユーリは驚いているようだ。

【私はいいですけどシンはいいのですか?】
【あんまりなんだけど、どうかなって思ったから】

 ユーリはほんの少し考えてから答えた。

【それじゃあ試しに行ってみましょうか】

 結局のところボクは彼女を発破をかけてほしかっただけなのかもしれない。
 二人でいく臨時広場。

【すいません。アコライトと騎士いいですか?】

 ユーリと一緒にボクは初めてのPTへと参加していった。
1?7 迷い
 彼女がやられて以来、ボクたちは少しだけ変わったような気がする。
 今まで相手を思いやることなんてしなかったボクが彼女に対してだけ気にかけるようになっていた。
 正直なところ驚いていた。

【間に合わなかったらこれを使って】

 店売りの回復アイテムをいくつか渡すと嬉しそうにお礼を言ってくる。
 こういうのも悪くないものだ。
 人と距離を置いていたいままでの人生がこういう小さなきっかけで変われるのならばそれでもいいかもと思うほど僕としては前向きになっていく。

【私もシンに負けないように頑張ります】

 何をどう頑張るのか知らないが悪い気分にはならない。
 こういうのが友達なのかと思うと悪くない。
 もっとも現実世界では友達は今もいない。

【シン】
【なに?】

 一通り狩りをしてからいつもの場所で話をしているとボクの名前を呼んでくる。
 そして黄色い文字で携帯のメールアドレスが送られてきた。

【これは?】
【何かあった時の連絡方法です。アドレスを知っていれば連絡も簡単に取れるから】

 この世界でしか会うことの無い僕たち。
 その中での友達だからこそようやく気を許せるようになっていた。
 それを現実世界まで繋げてこようとする。

【私が勝手に送っただけですから、そのまま流してくれてもかまいませんから】

 ユーリからすれば何でもないことなのに僕は何も言い返せない。
 どうすればいいのかわからないまま、とりあえずアドレスをメモした。

【今日はそろそろ落ちますね】
【う、うん。お疲れ】

 手を振って彼女は落ちて行く。
 そして僕は一人、渡されたアドレスをぼんやりと眺めていた。
1?6 命の重み(2)
 目の前で起こった事故はボクから母親を奪い去った。
 血の海に沈む母親の無残な姿が今でもボクの瞼にはっきりと映っている。
 誰かが目の前で死ぬことがこれほど恐いものだと思わなかった。
 だからこそ、ゲームだろうがなんだろうが死ぬということに対して過剰に反応してしまう。

 街に戻って合流をしたボクとユーリはいつものベンチに座っていた。
 現実世界で震えているボクがいることを知らないユーリは黙ったまま座っていた。
 時間だけがただ流れていき、気がつけば三時間ほど進んでいた。

 画面を見るとそこにはユーリが何も言わずに座っていた。

【まだいたの?】

 少し落ち着いたボクは彼女に声をかける。

【ずっと黙ったままならどこか行けばよかったのに】
【おかえりなさい】

 ボクの言葉を遮るように彼女は答えた。

【ずっと静かだったのでどうしたのかと思いました】
【待ってたの?ここでずっと?】
【他にすることもないですし、それになんだか様子が気になったのでずっといました】

 三時間という時間をただボクを待っていたと言う彼女が信じられなかった。
 どうしてそんなことはできるのか不思議でならなかった。

【時々、お手洗いにも行きましたけど、それ以外はずっと待っていました】

 そうまでして待つ必要なんてどこにもないのに、とボクは思った。

【それと謝りたくて】
【謝る?】
【私の不注意でやられてしまったことであなたに迷惑をかけてしまったことです】

 彼女はそのことでボクが気分を害したのだと思っているらしい。
 あの時は確かに八つ当たり的なものがあったが今は違っていた。

 死ぬということの恐怖から抜け出せない自分の弱さを彼女に知られたくないからつい怒りを表に出してしまった。

【やっぱりアコライトでは限界がありますね】
【それは・・・・・・】

 彼女なりにそのことを気にしていたのだろう。
 そしてボクは彼女の気持ちをきちんと理解していなかったことで余計に追い詰めているように感じた。

【迷惑ですよね・・・・・・。私のようなのがいたら】
【そんなことはない】

 ボクはやるせない気持ちになった。

【そ、その・・・・・・・】
【なんていうか・・・・・・】
【ボクも悪かったから・・・・・・】

 きちんと言葉にできないボクは慌てた。

【約束しているのならそれを守るべきだよ】
【シン?】
【そのために足手まといなんて思って欲しくない】

 彼女の力が不足しているのならばそれをボクが補えばいい。
 そしてやられないように細心の注意を払っていけばいいだけなのだと。

 
1?5 命の重み(1)
 二人で狩りをしたり話をすることに慣れてきたボクだが、相変わらず他の人とのコミュニケーションはまったく進展しなかった。
 そのことを察してかユーリも誰かを紹することもせずボクとペア狩りをしてくれていた。
 しかし、騎士のボクと違ってアコライトのままの彼女は油断するとモンスターに襲われて瀕死になってしまうことがこのところ増えていた。

【すいません・・・・・・・】

 申し訳なさそうに謝る彼女にボクは転職を何度か勧めた。
 しかし、いつ戻ってくるかわからない友達との約束のためこのままでいると頑なに転職を拒んだ。

【でもこれ以上、新しいところが増えていってもアコライトのままでは辛いと思う】
【わかっています・・・・・・】
【転職したほうがもっと効率よく狩りもできる】
【それもわかっています・・・・・・】

 この調子でいつもボクは説得するのをやめてしまう。
 頑固すぎるのも考え物だと思ったがそれを訂正してくれとは言わなかった。
 転職してプリーストになっていたならばさほど問題にもならないことだが、アコライトのままではすぐにSP(スキルポイント)が切れてしまい、自分の支援までまわらなくなってしまう。
 そのために横沸きや少し距離が離れるとモンスターに襲われていた。

【今日は戻ろう】
【はい・・・・・・】

 自分で用意していた回復アイテムも底をついて、これ以上は無理だと思った。
 ワープポタを開こうとしたその瞬間、彼女の横にモンスターが沸いた。
 ボクのHP(ヒットポイント)は1000ほど残っていたが、彼女はほとんど瀕死に近かった。
 一発でも攻撃が当たればやられてしまう。
 距離的にボクが攻撃するよりも早くモンスターが彼女に攻撃をした。
 あっさりとやられて倒れこむユーリにボクは愕然とした。

 今まで危ない場面はあったものの一度もやられたことはなかった。
 それが今目の前で彼女がやられた。
 敵を何とか倒したが、イグドラシルの葉を持っていないボクは彼女を起こすことができなかった。

【やられちゃいましたね】

 どこか苦笑いをしているように思えた。

【ど、どうして回復しなかったんだよ】
【ポタ出している最中でしたからどうすることもできませんよ?】
【その前だよ】

 ワープポタを出す前に回復しておけばこんなことにならなかった。
 そして守れなかったボクの弱さが苛立ちをさらに高めていく。

【そうでしたね。もう戻るだけだって思って油断していました】

 ゲームなのだから街に戻れば復活できる。
 だからそんなに怒ることでもなかった。
 でも、ボクはそれが嫌だった。
 誰かが死ぬということが・・・・・・。
1?4 コントロール
 ほとんど現実世界のことを愚痴ってしまったボクは何を話しているのだろうかと思った。

【ごめん】

 ボクの愚痴なんて聞いてもなにも楽しくないのについ話してしまったことを後悔していた。

【謝ることなんてないですよ。私だって愚痴りたい時もありますから】

 ユーリは気にしないでと言う。
 年上の女性は大人だなぁと思ったが、それを言うことは相手に対して失礼だったので口にはしなかった。
 何にしても人に愚痴るというものはその人にとっては迷惑なことなのではとボクは思った。

【でもこの世界は素敵ですね】
【どうして?】
【知らない人とこうして友達になって話をすることです】

 それはただ単に顔が見えないからではと思った。
 言葉だけで人を判断することは簡単なことではない。
 いい人だと思っていても実は人を平然と裏切ったり傷つけたりする。
 それが嫌で現実逃避をする人もいたり自殺をしたりする。

【一人になってから私は何をすればいいのかずいぶん悩みました】

 ずっと一人だったボクからすれば彼女は羨ましかった。
 待っている人がいる。
 友達と呼べる人がいる。
 それに比べてボクは何一つ彼女が持っているものを持っていなかった。

【こうしてシンと一緒にいることでその悩みも少し解決できました】
【ボクはなにもしていないけど?】
【いえ、こうして話ができるだけでも嬉しいですから】

 そんなことを言われたのは初めてだった。
 ボクと話すことすら嫌がる人もいれば存在すら認めてもらえないこともあった。

【変な人だね】

 どう答えたらいんかわからないボクはそう答えた。

【はい】

 別に褒めているわけでもないのに彼女は嬉しそうに頷いた。
 そう感じた理由もわからなかったが、ボクはそう思った。

【現実世界だともっと変な人ですよ?】
【どう変なの?】
【それは秘密です】

 こんな何気ない会話をするのはもしかしたら初めてかもしれない。
 何も飾ることなく話し合える。
 友達というものはこういうものなのだろうかと思った。

【さて、そろそろ狩りに行きますか?】
【どこいきたい?】
【お任せします】

 任せられてもボクは自分から動くことはなかったので断るが、ユーリは頑としてボクに決めさせようとした。
 仕方なくボクはダンジョンに行くことを提案すると彼女は賛成をした。

【しっかり支援しますから騎士様は頑張って倒してくださいね】
【了解】

 ボクを頼りにしてくれるのならばそれに応えるべきなのだろう。
 ボクたちはそうしてダンジョンへ向かっていった。